パタゴニアが長崎県石木ダム建設反対活動を支援する理由ーパタゴニア日本支社長辻井隆行さんに聞く、パタゴニア式プラクティスとは【後編】
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パタゴニアが長崎県石木ダム建設反対活動を支援する理由ーパタゴニア日本支社長辻井隆行さんに聞く、パタゴニア式プラクティスとは【後編】

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世界的アウトドアブランド、パタゴニア。製造過程における環境問題や人権問題に熱心に取り組むことでも知られています。もっとパタゴニアについて知りたい!というファンも多いのではないでしょうか。

前編に引き続き、後編では、かねてからパタゴニアが阻止活動を支援している長崎県石木ダム建設についてお話を伺いました。

欲しいものと必要なものを線引きするーパタゴニア日本支社長辻井隆行さんに聞く、パタゴニア式プラクティスとは【前編】

 

ダム建設阻止活動支援のきっかけは真水問題

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—前編のデニムの「水」つながりで、伺いたかったのが、ダムのことです。パタゴニアがなぜ、長崎県と佐世保市が推し進める石木ダム建設の反対活動を支援しているのでしょうか?

パタゴニアが目指すことには、三本の柱があると考えています。まず、自分たち自身のビジネスのプラクティスを見直すこと。洋服を作るうえでのインパクトを抑えることを中心に、ビジネスを行う上でのあらゆる負荷を最小限にすること。この部屋(パタゴニア 東京・ゲートシティ大崎内のミーティングスペース)の机や壁材なども、100年前の廃材やリサイクル素材でできています。

アメリカンテイストの大きな木製テーブルも100年前の廃材で作られたもの

アメリカンテイストの大きな木製テーブルも100年前の廃材で作られたもの

パタゴニアの原点、ティンシェッド(ブリキ小屋)。この壁材もそのブリキ材を再利用している

パタゴニアの原点、ティンシェッド(ブリキ小屋)。この壁材もそのブリキ材を再利用している

そうしたプラクティスを徹底した上で、ビジネスとしての成功事例を作り、他社に関心をもっていただけるようにすることが二つ目の柱です。利益だけではなく、環境や人権に配慮するビジネスモデルが増えることが、持続可能な社会にとって大切だと考えるからです。そして、もう一つが、環境問題に取組む団体を支援するといった直接的な活動に携わることです。

支援といえば、パタゴニアは1985年から売り上げの1%を環境団体に毎年寄付しています。今、合計するとこの助成金や製品寄付で6,800万ドル(約83億6,400万円、※2015年12月現在)くらいを提供してきたことになります。

私たちが直面している環境問題の中でも、人間が水を使い過ぎていることや、河川を人工的にコントロールしてきたことによる弊害など、真水の問題はとても重要です。だからパタゴニアでは「自然な川を取り戻す」活動を幅広く支援してきました。

同時に、川や、それを育む山や森、そして川が注ぎ込む海は、自然の中で遊ばせてもらっている僕たちにとって大切なフィールドでもあります。僕たちのビジネスは、アウトドアスポーツを楽しんでいる方に製品を買っていただくことで成り立っていますから、環境を守ろうとすることはとても理にかなっている、自然なことだと思っています

福岡に僕たちの直営店がありますが、それは九州の豊かな自然があるからこそです。石木ダム建設反対活動を支援する理由のひとつはそこにあります。建設が予定されている場所そのものは遊びのフィールドではないかもしれません。しかし、13世帯61名の方が暮らす小さな里には、豊かな自然と貴重な生き物が多く存在します。僕たちが日ごろのビジネスを行う上で大切にしている人権と環境という二つの価値に照らしてみても、とても親和性が高い問題です。

石木ダムが建設されるとダムの底に沈む川原地区。美しい里山が印象的

石木ダムが建設されるとダムの底に沈む川原地区。美しい里山が印象的(写真:村山嘉昭)

今年8月に石木ダム建設予定地で、行政代執行という手続きが行われました。ダム建設予定地の川原(こうばる)に住む13世帯のうち、4世帯の農地が強制的に収容されたんです。農地の所有者が土地収用の手続きに応じなかったために、強制収用という形で、書面上で所有権が国に移されたんですよ。土地の所有者であるおばあさんは、もうこの土地は国のものだから早く農作物を捨てなさいと県の職員に言われたそうです。このことは、地方版では取り上げられましたが、全国的には全く知られてないですよね。

事業主によれば、石木ダムの目的の一つは、川棚町の川原地区を水の底に沈めて佐世保の人たちの生活水を確保することです。実際にダムが出来れば、その建設費のほとんどは佐世保の方たちが払うことになります。それに、コンクリートの構造物を作って、パイプラインを作るっていうことは、維持費がずっとかかるっていうことなんです。そしてそのお金は水道代に上乗せされます。

水道代を払うのは、今の佐世保市民の子どもたちやその孫たちですから、お母さんたちは、自分の子どもやその孫たちが将来、お金を払い続ける価値がある計画なのかどうかを客観的に考えてほしい。佐世保の方々が真剣に考えて、市民自らが答えを出すことが大事だと思っています

環境問題を解決するカギは、市民による民主主義にあると考えています。客観性のある情報公開と透明性のある議論によって、市民の皆さんがよかったと思える結論を出すことが大事です。石木ダム問題を巡って、そうしたプロセスが実現すれば、日本全国の問題にも良い形で影響が与えられるし、ロールモデルになると思って、僕たちはこの問題に関わっています。

石木川を飛び交うホタル(写真:村山嘉昭)

石木川を飛び交うホタル。この光景も美しい水があってこそ(写真:村山嘉昭)

——いい方向に転換しそうですか?

まだまだ道半ばだと感じます。事業主である長崎県と佐世保市は着々と手続きを進めています。ただ、建設予定地に住む方々は、ダムの不当性を訴え続けていますし、現場での阻止行動も行っていますので、予定通りに建設が進んでいないこともまた事実です。実際に、2017年だった完成予定は、6年間延期されました。それだけでもダムの必要性に疑問がわきますが、僕たちもいろんな形で世論を喚起することを考えていて、思いもよらなかった著名な方々も関心を寄せてくださったり、「できる範囲での支援をする」と言ってくださったりしています。最も大事なことは、そういう方々の力も借りながら、350億円もの税金を支出する佐世保の方々がこの問題を冷静に考える空気を醸成することだと思っています。

佐世保の方たちは、関心がないというよりは、事実をご存知ないんだという気もしています。佐世保の人口は減少の一途を辿っていますし、人口流出は全国の市町村で第6位です。人口が減って、水の需要が下がっているのに、いらないダムを作ったら、今後一人一人が負担する金額が大きくなるんですよね。

このダムの建設には、市民一人当たり13万円もの税金が投じられ、4人家族なら50万円以上もの負担をする計算になります。そのお金をもっと別のところに使うことが佐世保の未来にとってより良い選択なら、市民の方々が考えてそうすべきだと思います

 

最後に……辻井さんのエコへの取り組みとは?

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——みんなが問題に向き合うことが大切ですね。最後に、辻井さんご自身のエコへの取り組みがあれば教えてください。

自分なりに、必要なものと欲しいものを区別するようにしています。この2年ぐらいは、普段着はパタゴニアの靴下とアンダーウェア以外ほとんど買っていません。アウトドアスポーツ用のウェア類は自分にとって必要なものだから新調しました。

ものをあまり買わなくなった分、食べ物にかけるお金が増えています(笑)。なかなか自炊が出来ないことを言い訳に、外食の時には、美味しくて、なるべく体にいいものを楽しく食べたいなと思って。それが自然農やオーガニックのものだと、生産者のことを考えたりしながら食べられて余計に楽しいですね。

お金とかモノって死んだらお墓まで持っていけないし、雪山で過ごした時間とか、あの時のご飯はおいしかったなとか、そういう思い出の方が、高価な服や靴をたくさん持っているよりいいと思うんです

あとは、自分に出来る環境活動や社会的な活動を続けて、周りの人から「あいつは役に立ったな」と感謝されて死ねたら、こんなに嬉しいことはないですね(笑)。

(おわり)

パタゴニア日本支社支社長辻井隆行さんへのインタビュー前編はこちらからご覧ください。

 

Patagonia

www.patagonia.com/japan

 

辻井隆行 Takayuki Tsujii

アウトドア用品のパタゴニア日本支社長。東京出身。早稲田大学教育学部卒業後、日本電装(のちのデンソー)に入社。早稲田大学大学院社会科学研究科修士課程(地球社会論)を修了。大学院修了後、シーカヤック専門店「エコマリン東京」に入社。アウトドアスポーツに魅了され、国内外を回る。パートスタッフとしてパタゴニア 渋谷ストアに勤務。その後正社員となり、パタゴニア鎌倉店勤務、マーケティング部勤務、ホールセール・ディレクター(卸売部門責任者)、副支社長などを経て日本支社社長に就任。

 

<石木ダム建設を阻止するために私たちができること>

◼︎Change.orgで署名をする

長崎県知事 中村法道様 佐世保市長 朝長則男様: 石木ダム建設のために、13世帯60人が暮らしている土地を強制収用しないでください!

 

◼︎阻止活動の状況について知る

石木川まもり隊
www.ishikigawa.jp
www.facebook.com/ishikigawamamoritai

 

◼︎Tシャツを買って活動を支援する

ノー石木ダムTシャツ(パタゴニア)
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水没予定地である長崎県川棚町川原在住のイラストレーター、いしまるほずみさんの描いた絵をアレンジした描き下ろしのグラフィックアート入りTシャツ。
このTシャツの1枚の売上につき500円が長崎県川棚町の石木ダム建設計画の見直しをもとめ活動する「石木川まもり隊(長崎県佐世保市)」に寄付されます。

価格:3,888円(税込)
購入はこちらから

 

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