最近、「エシカル・ファッション」という言葉が話題になっています。「エシカル(倫理的な)・ファッション」とは、つくる過程で、つくる人が不当な環境や条件で働かされていたり、地球環境に負荷をかけていない洋服のことを指します。オーガニックやエコ、サステナブル(持続可能な)、フェアトレードのものが「エシカル」に含まれます。
日本の企業の中で、かなり早い時期から、オーガニックコットンのデニムに取り組み、つくる環境にも目を向けたデニムブランド「Lee(リー)」。
Lee Japan取締役の細川秀和さんに、デニムを通して見えるエシカルについて伺いました。
-ジーンズマスターの細川さんにとってのジーンズの魅力って何ですか?
デニムに使われるインディゴは色が落ちます。色なんて落ちないほうがいいにもかかわらず、1800年代後半からずっと120年ぐらい続いている。色が落ちたらかっこいいよねってなんで言われるかもナゾでしょ(笑)。色が落ちるアパレルって、ジーンズ以外ないところが唯一無二の魅力です。
あと、デニムはほかのアパレル製品と違って、「洗い」という工程があります。昔のデニムって、生の洗っていない状態からはいて色を落とす「スローファッション」の代名詞みたいなものだったんだけど、デニムメーカーの俺たちが頑張って、どれだけリアルにはき古したように見せるかっていうところを企業努力しちゃった。そのために「ファストファッション」の代名詞みたいになってしまって。
-確かにあえて古くするっておもしろいですね。最初に始めたのは?
いちばん最初に「洗い」をやったのは1963年で、エドウィンです。アメリカ製の糊がバリバリについたものを並行輸入していて、それをお湯で洗いました。当時はジーンズを洗うという概念がないので、もちろん洗うための工場なんてなかった。当初はクリーニング屋さんがやってたんですね。
-現在のように、石を入れて洗おうと思ったのはすごいですね。
これは1981年。軽石といっしょに洗うストーンウォッシュをエドウィンが開発しました。あたりをつけるために、軽石で擦るっていうのは、みんなやっていました。それで、古っぽく見せるために、軽石を入れて洗ったんですね。
—ジーンズの洗い加工のレサイプ(レシピ)を見せてもらいましたが、洗いだけで何度も工程があるんですね。
薬品などを入れた洗いの後に、すすぎを2回する意味は、薬品によってpHが動くから。それを中和させたり、薬品を残留させないために、すすぎが2回ぐらいはあります。
—水の排水処理は?
バクテリアが入っている排水処理層で浄化します。それはなぜかというと、ジーンズを洗う際に綿を擦っているので「カス」が出てしまいます。そのセルロース繊維を食べるバクテリアを入れてセルロース繊維の分解や染料の廃液を分解していきます。その後、沈殿槽で汚泥を沈殿させて、上澄みを最終的には魚が住める透明な水にして川に流しています。
-かなりの水を使いそうですね。
だいたい平均してジーンズ1本あたり150リットルぐらい水を使います。それってすごいインパクトですよね。
今では水の使用量を減らそうというキャンペーンをやっている企業も多いけれど、Leeでは2010年にkurkkuとコラボレーションして、インクマックスというプリント技術を使ったデニムをつくりました。
-染めるのではなくプリントということですか?
中古加工したジーンズをバラして、それをスキャニングしてデータにして、プレオーガニックコットンの白い生地にインクジェットでプリントします。これを切って縫えば、洗った中古みたいになるという。
水を減らすプロジェクトをやろうって俺が言い出して、三菱鉛筆が持っているインクマックスという技術をつかって、ものすごく苦労してつくって、さらに水の使用量は1/10に抑えることができたのに、売れなかった(笑)。
—それは高いから?
高いというのもあったと思う。つくってる側からすれば、画期的ですごい!ってなったけれど、買う側からすれば、中古加工したものが同じぐらいの値段で買えるから。
そこに気がついて、クラッシュさせたものとか、缶バッジがいっぱいついているものもつくったり。
がんばってやろうと思ったんだけど、続いてないんだよね。
ー本物との区別がつかないぐらいの完成度!水の使用量の面もそうですが、細かなこだわりがすごいですね。
生地はプレオーガニックコットンのサテン生地を使っています。あや織りの生地にあや織りをプリントしたら、ハレーションを起こしてしまって。さらに、裏はちゃんと裏地を全面プリントしています。めくったら白い生地が見えちゃうとか嫌じゃない。
—なぜ最近「エシカルファッション」が話題になっているのでしょうか?
それはビジネス。他に売れるトピックスがないからだと思う。
マーケティングの視点で見ると、2008年ぐらいから、ファストファッションっていう低価格帯ビジネスが活発になってきて、ここ7年間ぐらい安いものがファッションの中心にあった。でも、これも2年ぐらい前がピークなはずです。ピークを過ぎて、消費者の価値観が安いものだけじゃない「何か」に向かっているだろうことを仮定したわけですね。
現実的に消費者が安いもの以外に価値を見出して、消費活動に移行しているかというと移行はしていないんだよね。移行するとして仮定して考えた価値観で思いつくのは、メイドインジャパン。サステナビリティとクオリティに重きを置くだろうと言うこと。
ーLeeのように、たまたま買ったらオーガニックコットンだったって、理想の買い物ですね。
Leeでは、2006年ぐらいからオーガニックコットンをやっているけど、オーガニックコットンのものが売れているか、お客さんからオーガニックのものの要望が増えてるかというと決して増えてはいない。
オーガニックコットンだけでいうと2010年ぐらいのほうが逆にブームだったかもしれないね。だんだんみんなが知り始めて、オーガニックが浸透して、そういうコットンもあるんだって認知されて。
Leeのデニムにもいろいろこだわりがあるけれど、前ポケットの裏にタグがついています。これには、コットンはどこのもので、どこで糸にして、どこの工場で織ってってすべての情報が書いてあります。ブランドとして、世界をけっこう見渡してもそこまで情報書いているところってないんですよね。もともと昔は機密事項にしていたこと。
こうしたさまざまな取り組みは、お客さんからの評価はほとんどないと言ってもいいかもしれません。でもこれからもLeeのエコ活動として、続けていくつもりです。
Lee Japan
細川秀和 Hidekazu Hosokawa
Lee Japan ディレクター/取締役。大学卒業後、「エドウィン」に入社。以後20年近くにわたりLeeの商品開発に携わる。デニムの知識は業界随一。