メキシコを代表する女流画家フリーダ・カーロをご存知ですか?
情熱の画家としても知られ、心の底にある痛みや苦しみ、希望をえぐるように描くシュルレアリズム的な絵画が印象的な画家です。
©ノンデライコ2015
6歳の時にポリオを発症し、その後遺症のため右足が不自由になり、さらには18歳の時、乗っていたバスが大事故に巻き込まれ、瀕死の重傷を負います。
寝たきり生活が続き、その退屈しのぎに始めた油絵が彼女の人生を変えることになります。
彼女の絵を認めたのは、後に夫となるメキシコの巨匠壁画家ディエコ・リベラ。
体の不自由や後遺症と戦いながらも精力的に絵画の制作に取り組み、彼女の作品はヨーロッパでも高い評価を得ています。
フリーダが残した数々の遺品は、遺言によってフリーダの死後50年、メキシコシティにあるフリーダ・カーロ美術館、通称「青い家」のバスルームに保管されていました。
その封印が解かれたのは2004年。メキシコのフリーダ・カーロ財団は、遺品を撮影するプロジェクトを立ち上げます。
そこで、白羽の矢がたったのが世界的な写真家の石内都さんでした。
きっかけは、石内さんがお母さんの遺品を撮影したシリーズ「Mother’s 2000-2005 未来の刻印」。
2005年に国際現代美術展、ヴェネツィア・ビエンナーレ日本代表になり、それがキュレーターの女性の目に止まり、遺品撮影を依頼されます。
ドキュメンタリー映画「フリーダ・カーロの遺品ー石内都、織るように」は、ここから物語が始まります。
依頼を受けた石内さんは3週間、フリーダの遺品と向き合うことになります。もともとフリーダ・カーロの作品や人柄には、それほど強い関心がなかったと言い切る石内さん。
しかし撮影に際して、おびただしい数の医療用コルセットや左右のかかとの高さがちがう靴など、フリーダが生涯悩まされた「痛み」を感じさせる遺品と対峙することになります。
あらためてフリーダの絵画を観に行ったり、丁寧に繕われ大切に着られていた洋服と向かい合い、石内さん自身の意識の変化を映像から感じることができます。
Frida by Ishiuchi #34 © Ishiuchi Miyako
また、代々大切に受け継がれる民族衣装「テワナドレス」もこの映画の重要なキー。
フリーダ・カーロも愛したこの民族衣装は、フリーダの母・マティルデの出身地アオハカ州イスモ地方のもの。イモスは「花の咲く場所」という語源を持ち、テワナドレスの刺繍も大きな花をモチーフにしたものが多いと言います。
Frida by Ishiuchi #59 © Ishiuchi Miyako
一針一針ていねいに刺繍されたドレスは数ヶ月から数年かかるものもあり、1着数万円から数百万円と大変高価です。1着のドレスは、母から娘へ、またその子どもへと受け継がれていきます。
遺品の中にもたくさん残されていたテワナドレスは、フリーダのアイデンティティの源でもありました。
©ノンデライコ2015
石内さんはこう言います。
「遺品は過去を撮るわけではないんです。今という時間に出会っている感じがするんです」
石内さんの35mmフィルムカメラの乾いたシャッター音も心地よく、静かにあたたかな気持ちが残る映画です。
「フリーダ・カーロの遺品ー石内都、織るように」
2015年/日本/89分
監督・撮影:小谷忠典
出演:石内都
ウェブサイト:legacy-frida.info
2015年8月8日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開予定